パニック障害
「電車が怖いんです」。
流れ落ちる汗をハンカチで拭いながら、そう語った彼は、営業担当の会社員でした。日々電車に乗らないわけには行きません。それにもかかわらず、毎朝、電車に乗ることを考えただけで息苦しくなってしまうのでした。
大学を卒業するまでの彼は、スポーツマンで人懐っこく、誰が見ても自信に満ち溢れていました。
そんな彼の変化のきっかけは、些細なことでした。
その日は電車のトラブルにより、いつもより車内がひどく混雑していました。快速電車のため、次の停車駅まで数十分間、扉が開くことはありません。車内が蒸し暑かったこともあり、目の前の女性の息遣いが次第に苦痛に満ちたものへと変わっていく様を見ていました。
「苦しそうだけど、大丈夫かな」。
はじめはそう思っていました。
ところが、身動きの取れない状況の中で彼女の苦しそうな息遣いを聞いているうちに、先日上司に叱られたときの息苦しさがよみがえって来たのでした。
以来、彼は電車に乗ると息ができなくなる不安に怯え、各駅停車にしか乗れなくなりました。さらにひどいときは、一駅ずつ下車し、しばらくベンチで休むようになりました。出社どころではなくなってしまいました。
パニック障害
自信に満ち溢れているかのように見えていても、それがその人のすべてではありません。誰もが不安や恐怖を抱いているのです。
この男性は、閉じられた狭い空間の中での息苦しさから、パニック発作という症状が引き起こされました。
心理カウンセリングでは、閉じられた狭い空間や息苦しさにまつわる連想が語られて行きました。また、上司に叱られた体験からさまざまな過去の体験も想起されました。電車に乗るのが怖いという体験を通し、自信に満ちた自分でいることから、少しずつ肩の力を抜いて生きることを認める変化が訪れました。